
会社概要
2020年1月設立。鉄道チケットや旅行アクティビティなどの予約プラットフォーム事業を展開し、交通・観光事業者や自治体などのサプライヤーと国内外のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)など旅行会社を結び、事業者の予約販売から送金・入金に至るまでの管理運用を一元化できるシステムを展開。2024年3月、東京メトロと資本業務提携を締結。
プラットフォームビジネスを展開するリンクティビティが、東京メトロと資本業務提携を結んだのは2024年3月のこと。持分法適用での資本業務提携により交通・観光プラットフォーム事業を共に進めるという、鉄道業界で初の取り組みとなった。そのパートナーシップの意味とこれからの展望を、代表取締役の孔成龍さんに聞いた。
〈聞き手:東京メトロ企業価値創造部新規事業企画担当課長 渡辺太朗〉

決済から乗車までをシームレスにつなげるビジネス
渡辺:もともと、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が控えていた頃に、企画乗車券「Tokyo Subway Ticket」をオンラインで販売したいと考えていたんです。そうすれば海外からのお客様も自国の旅行サイトで購入できますから。ただ、その商流を自社で整えるのはなかなかハードルが高くて。そんなときに、鉄道会社の集まりでリンクティビティの存在を聞いたんです。
孔:初めてお会いしたのは2019年頃ですよね。私たちが乗車券をeチケット化してオンラインで流通させるプラットフォーム事業を開始して、関西から関東へと広がりはじめた頃です。ほとんど口コミでしたね。
渡辺:ちょうど東京メトロの券売機にQRコード読み取り機能が導入されたタイミングだったんですよね。そこで、孔さんに協力してもらって、リンクティビティの予約プラットフォームを通して取得したQRコードを券売機で読み込んで発券できるサービスを開始しました。
孔:システムができたのが2020年3月。自分たちでもびっくりするくらい早かった(笑)。大掛かりな改修となるとコストが上がりますから、機器が対応していたのも大きかったですね。他社ではQRコードの認証システムを駅に置く形が多かったのですが、券売機も含め自動化できたのが良かったと思います。
渡辺:それまでは窓口でバウチャー(引換券)を引き換える形でしたから、行列ができてしまうこともあって。おかげさまでお客様はスムーズに発券できるようになって、駅係員の手間も少なくなりました。
孔:外国人が駅の券売機で乗車券を買ったり、駅の窓口で交換するのはハードルが高いんですよね。だから、私たちがこの会社を設立する前は、企画乗車券を海外に郵送したりもしていたんです。そもそもプラットフォームビジネスを立ち上げたのは、決済から乗車までをシームレスにつなげたかったからなんですよね。
渡辺:そうですよね。当時、中国からの訪日客が増えていたので多いので、そのコネクションも魅力でした。中国で普及しているSNS「WeChat」でも販売してもらって、実際に売上も上がりましたし、今では月間20万枚以上の販売枚数のうち7割ほどがリンクティビティ経由ですよ。
孔:その頃のOTAや旅行会社の数は50社ほどでした。今は400社ほどに増えていますね。
渡辺:ただ、ちょうどその頃にコロナ禍が起こったんですよね。移動が制限されてしまって、当初想定していたシナリオとは変わっていってしまって。
孔:鉄道業界もそうでしたが、旅行業界も大打撃を受けました。でも、このサービスは絶対に世の中に必要だと思っていたので、そんな中でもシステム開発や投資は続けてたんです。

技術力と信頼性の融合で、東京観光に新たな価値を
渡辺:僕自身は「Tokyo Subway Ticket」のオンライン販売化の企画をしたあとに、別の部署に異動したのですが、チームメンバーがオンライン販売化のサービスインや様々な取り組みをリンクティビティと一緒に行ってくれていました。そして2022年7月に現在の企業価値創造部に移って、何件かスタートアップへの投資を手掛けたりしてました。そのときに、久しぶりに孔さんとお話ししたいと思ったんです。というのも、コロナ禍が収まってインバウンドが戻りつつあったから。ぜひ一緒に何かできるんじゃないかと思って。
孔:久しぶりに連絡があったと思ったら、資本業務提携の話でしたから、びっくりしました(笑)。資本提携って、数年間じっくり協業してからが多いですから。
渡辺:リンクティビティはチケット販売以外もできるじゃないですか。東京メトロも、東京の都市内観光「City Tourism」構想を打ち出していたので、ぜひパートナーとして一緒に開発してもらいたくて。
孔:沿線のコンテンツを組み合わせて、そこに利便性もプラスして提供していく。それはいい考えですよね。
渡辺:リンクティビティとは、「Tokyo Subway Ticket」のオンライン化だけではなく、「地下謎への招待状」というイベントのチケットを販売してもらったり、東京の観光名所を「Tokyo Subway Ticket」にバンドルした商品をつくったりもしていましたし。
孔:資本関係があれば連携もよりスムーズになりますよね。東京メトロは都心に路線ネットワークがあって、しかも他鉄道会社と多く接続しているのが特徴ですから、さまざまな展開の可能性があるとも感じました。
渡辺:そこからいくつかの手続きを経て、実際に資本業務提携を結んだのが2024年の3月。そのときのプレスリリースで、東京の観光施設をフリーパスで回れる、乗車券付きの新商品「Tokyo City Pass」の開発を進めることも発表しました。
孔:提携以降は、「Tokyo Subway Ticket」の販売強化だったり、「Tokyo City Pass」の発売に向けたシステムやサービスの準備を一緒にやってきましたね。
渡辺:僕たちは「Tokyo City Pass」に協力してもらうために、都内の観光施設様に提案に行ったりしていました。
孔:やっぱり、マーケティング戦略まで含めて緊密に話し合うことができるのは、資本提携しているからこそなんでしょう。
渡辺:リンクティビティのオフィスに僕の席も用意してもらっていますしね。やっぱり、設立間もない会社はリソースが限られていますから、資本を入れてさせもらって、体制を強化したうえで一緒に開発したほうが、お互いにとっていいと思うんです。
孔:そうですね。実際に社内体制を倍近くに強化しました。そのような資金面のメリットはもちろんありますし、会社の信用力が向上するのも大きいです。今、日本国外の鉄道観光も開拓してるんですが、たとえば韓国の鉄道会社に東京メトロと資本関係があることを伝えると、すごく信用してもらえる。日本の鉄道サービスは世界的に有名なんです。
渡辺:東アジアを開拓しているんですよね。昨年は韓国に支社も設立して。
孔:はい。今は開拓を進めながら日本で成功事例がつくっているところで、そこからグローバルに広げていきたいと考えていますね。

深くつながるパートナーシップから可能性が生まれる
渡辺:東京メトロも、鉄道を核にしつつ、さまざまな事業展開を図ろうとしています。そのときに必要になるのが、まさにリンクティビティのようなプラットフォームなんです。そういうことができる会社は世の中にまだ少ないですよね。
孔:そうかもしれませんね。私たちは一般のシステム会社とはちょっと違っていて、開発費をいただくのではなく、東京メトロのようなサプライヤーとともにコンテンツをつくり、一緒に販売を増やしていくという考え方です。目的が一緒だから楽しく仕事できる(笑)。
渡辺:国内外のサプライヤー、旅行会社、旅行者をシームレスに結ぶことがそもそもの起業の理由だとおっしゃっていましたよね。
孔:そうですね。とくに日本の場合はサプライヤーごとにスタンドアローンのシステムをつくるケースが多いんです。国内だけなら便利なんですが、訪日外国人にとってはわかりづらい面もあります。私が海外旅行をするときに感じることでもありますが、やっぱり利便性が高くなければ、何度も訪れようとは思いませんよね。
渡辺:日本の場合は交通系ICカードがここまで普及しているから、制約も多いですし。
孔:そうですね。そこに私たちのようなプラットフォームが入れば、それらがつながって利便性が上がりますし、旅行業界全体の効率化にもつながると思うんですよ。実は旅行業界はまだまだシステム化が進んでいなくて、交通の課題を解決することがその突破口になると思っているんです。
渡辺:この資本業務提携がその第一歩になるといいんですが。
孔:鉄道というのは圧倒的に強い商品で、プラットフォームに入れば販売チャネルも増加します。卵が先か鶏が先かみたいな話ではありますが(笑)。その意味でビジネスとしても鉄道との連携は重要ですし、旅行業界にとっても移動手段として鉄道はやっぱり重要ですから、提携は自然な流れだと思いますね。
渡辺:僕たちとしても、孔さんが考えているようなビジョンの実現に、この資本関係を生かしてほしいと思っているんです。新たな取り組みを行う場として、ぜひ東京メトロというフィールドを使ってもらって。僕らもDXを推進するために助けてもらえますし、逆に東京メトロとの協業で生まれた新事業を他社に展開できるかもしれませんし。
孔:なんといっても、毎日650万人ものお客様が利用している路線ですからね。新しいサービスをぜひ生み出していきたいと思います。
渡辺:「Tokyo City Pass」のあとも、QRコードを利用した乗車サービスなど、いろいろと仕込んでいますからね。
孔:私たちが蓄積してきた観光のデータも活用していきたいですね。資本関係があると、いろいろな物事がスピーディーに進められます。リンクティビティと東京メトロはもともとは取引先。でも、今こうして一緒に話している感覚は「仲間」。まさにパートナーですね。
